アレックスは息子たちを連れてボーイスカウトのハイキングに同行する。アレックスは少年たちを日暮れまでにキャンプサイトに到着させなければならないが、小学生の集団は思うように動いてくれない。何人かはどんどん先に進んでしまうし、何人かはずっと遅れて見えなくなりそうだ。とくに遅れているのはハービーという少年で、先頭グループとハービーとの距離は数キロにもなろうとしている。 初めのうち、アレックスは先頭グループにいったん止まるように言い、ほかのみんなが追いつくまで待たせてから出発するという戦略をとった。そうするといったんは全員が揃うのだが、またすぐに間隔が広がって元どおりになってしまう。 そこでアレックスは、別のやり方をとることにした。ハービーを先頭に立たせて、残りの少年たちを歩く速度が遅い順に並ばせる。いちばん速い子が列の最後尾だ。一か八かだったが、やってみると列はひとまとまりになってスムーズに動きはじめた。誰も後れをとらないので、全員に目を配ることができる。ただしハービーが先頭なので、全体のペースは必然的に遅くなった。これでは、全員が遅れてしまうかもしれない。さて、どうすればいい? アレックスが出した答えは、ハービーの負担をなるべく軽くするというものだった。全体のペースを決めているのは、いちばん遅いハービーだ。だからハービーが速く歩けるようになれば、全員の進み方が速くなる。そこでアレックスは、おやつなどでふくらんだハービーの荷物を開けて、ほかの少年たちに少しずつ負担してもらった。おかげで歩くペースはずいぶん速くなり、全員が日暮れまでに無事キャンプ場へとたどり着いた。 この出来事が、工場の業務改善に対する大きなヒントになった。手当たり次第に改善しようとするのではなく、「ハービー」的な部分を見つけることが大切なのだ。 アレックスは部品の待ち行列の長さを調べて、ボトルネックとなっている機械を特定した。この機械の処理速度を改善した結果、2番目に遅かった機械も自然に速くなった。そして見る見るうちに、工場全体の生産性が向上しはじめたのだった。
ービジネス書のベストセラー『ザ・ゴール』ー